LOGIN三日後の朝、三通の返事が同じ日に届いた。
フィオナから。ベルダンから。レインから。 エリナは封筒を三つ並べて、少しだけ見た。 順番を考えた。 報告書として読むべきものから先に読む。それが合理的だ。 フィオナ、ベルダン、レインの順で開けた。フィオナの手紙は、二枚だった。
エリナへ
師匠の発言の件、アルバ殿下に確認した。殿下は「学院の代表として正式に発言する形を作れる」と言った。ただし、事前に発言内容の骨子を殿下に共有する必要がある。王宮の場での発言は、完全な自由ではない。でも、発言できることは確かだ。 これは大きい。学院の人間が王宮で直接話すことで、「一地方の話だ」という反論を封じられる。 ベルダンへの打診、良い判断だと思う。民間の商会が持つ記録は、クロヴェルが直接コントロールできない。それが重要だ。 それと、「あなたがいてくれることがどれだけ大きいかわからなくなってきた」と書いてくれた。 私も同じことを思っている。王都に来て、一人で動いていて、正直に言えば、孤独を感じることもある。でも、あなたたちがルシェムで動いているのを手紙で知るたびに、それが消える。 だから、ありがとう。こちらこそ。 追伸。ダリウスの動きに、変化がある。別紙に書いた。 ――フィオナ――別紙を開けた。
ダリウスについて。
今週、ダリウスが私に直接会いに来た。 父親の動きを、教えてくれた。 内容は以下。 クロヴェル侯爵が、最終報告の場を「無効化」しようとしている。具体的には、報告の場そのものを開かせないよう、国王への働きかけを強めている。「一年の任を与えたのは軽率だった」「アッシュフォード商会への肩入れは王権の公平性を損なう」という論理で、陛下に圧力をかけているらしい。 ダリウスは「これ以上は言えない」と言ってその場を離れた。父親に知られると、立場がなくなると判断したのだと思う。 でも、来てくれた。教えてくれた。 それだけで、今は十分だと思っている。 対策が必要。今夜中に考える。 ――フィオナ――エリナはフィオナの別紙を、三度読んだ。
最終報告の場を開かせない。 『一年の任を与えたのは軽率だった』という論理で、陛下に圧力をかけている。 エリナは少しだけ、目を閉じた。 想定していなかった、とは言えない。 クロヴェルが最終報告を恐れているなら、報告の場そのものを消そうとするのは、論理的な手段だ。 でも、想定していたより、早く来た。 残り四ヶ月で、すでにこの手が来た。 目を開けた。 ベルダンの手紙とレインの手紙は、後で読む。まず、フィオナへの返事を書いてから判断する。 エリナはゴードンを呼んだ。「フィオナから緊急の情報が来ました」
ゴードンに別紙を見せた。 ゴードンが黙って読んだ。 「……これは、想定より早い動きですね」 「そうです。最終報告の場を開かせないという手を、もう打ってきた」 「対策として、考えられることは」 「陛下に直接、圧力に負けないでほしいとお願いすることはできない。それは筋が違う。陛下が自分で判断されることです」 「では、陛下が判断する材料を、より強いものにすることが必要ですね」 「そうです。陛下が『この報告の場を開くだけの価値がある』と判断できる材料を、残り四ヶ月で積み上げる」 「学院の師匠の発言の形が確保できた、というフィオナさんの情報は、タイミングとして良かった。王都にいる学院の代表が発言できるなら、それは地方の話ではなくなる」 「アルバ殿下が動いてくださっている。それも、陛下の判断を支える材料になります」 「ベルダン会頭の記録も、早めに確定させた方がいいですね」 「そうです。今日中に、ベルダンの手紙を読んで返事を書きます」ゴードンが出ていった後、エリナはベルダンの手紙を開けた。
アッシュフォード商会 エリナ殿へ
記録の件、承諾する。ロッソ商会として、アッシュフォード商会の商品を採用した経緯と、それによる効果を、独自に記録する。日付入りで、商会の印を押した形で残す。 ただし、一つ条件を追加する。前回と同じく、条件だ。 その記録を、王宮への報告の場で使う際には、事前に私に知らせること。どういう形で使われるかを知りたい。自分の記録がどう扱われるかを、把握しておきたい。 それだけだ。他の条件はない。 一年後を待っている。 ――ベルダン・ロッソ――エリナはベルダンの手紙を読んで、少しだけ、胸の奥が温かくなった。
一年後を待っている。 その一行が、シンプルだった。 条件を付けながら、でも付けた条件は「把握しておきたい」という、信頼を担保するための条件だ。排除するための条件ではない。 返事は短くした。 ベルダン会頭へ 条件、承知しました。記録を使う際には必ず事前にご連絡します。 一年後、必ずご報告します。 ――エリナ・アッシュフォード――レインの手紙を最後に開けた。
エリナへ
『今日、笑った』という一行を受け取った。 マリオが「さりげなくが苦手」と言った時、か。それは笑う。マリオという人間を直接知らないが、手紙から伝わってくる人物像と、その言葉が合っている気がした。 ルナが確認してくれたという話も、読んだ。ルナという人間も、少しずつわかってきた気がする。手紙の中の人間だが、その人間らしさが伝わってくる。 笑ったことを知らせてくれてありがとう。楽しみにしていた通りだった。 それから、一つ報告がある。 師匠が、最終報告の場で発言する形について、自分から王宮に打診することにした、と言った。アルバ殿下を通じてではなく、師匠自身が直接、魔法師団長に話を通す、という判断だ。 理由を聞いたら、「俺も一年後を見届けたい」と言った。師匠が、そういうことを言う人だとは思っていなかった。 俺も、同じことを思っている。 一年後を、見届けたい。 ――レイン――エリナは三枚目の手紙を読み終えて、少しだけ止まった。
「一年後を、見届けたい」 師匠がそう言った。レインも同じことを思っていると書いた。 ベルダンも「一年後を待っている」と書いた。 フィオナは王都で動き続けている。 見届けようとしている人たちが、いる。 その事実が、今日のフィオナの別紙に書かれていた「最終報告の場を開かせない」という情報と、頭の中で並んだ。 クロヴェルが場を消そうとしている。 でも、その場を見届けようとしている人たちが、複数いる。 どちらの力が大きいか、今はまだわからない。 でも、見届けようとしている人たちの数が増えていることは確かだ。夕方、マリオが事務室に入ってきた。
「何かあったか? 雰囲気が少し違う」 「フィオナから緊急の情報が来た」 「どんな」 エリナは状況を簡単に説明した。最終報告の場を開かせないという動きが来ていること。 マリオが少し黙ってから言った。 「それって、俺たちが積み上げてきたものを、全部なかったことにしようとしてるってことか」 「場が開かれなければ、そうなる可能性があります」 「腹が立つな」 「立ちます」 「珍しいな、お前が腹が立つって言うの」 「立ちます。ただ、立てている場合ではないから後回しにします」 マリオが少しだけ笑った。 「お前らしいな。で、どうする」 「残り四ヶ月で、陛下が場を開く価値があると判断できる材料を積み上げる。それしかない」 「それって、今までやってきたことと同じだろ?」 「同じです」 「じゃあ、続けるだけか?」 「そうです」 マリオがしばらくエリナを見た。 「お前、怖くないのか?」 「怖いです」 「怖くても、続けるのか?」 「続けます。続けないという選択肢が、今の私にはない」 「わかった。俺も続ける」 「ありがとう」 「礼はいらないよ」マリオが立ち上がった。
「ただ、一つだけ言っていいか?」
「どうぞ」 「お前が続けるなら、俺も続ける。それだけだ。理由とか、計算とかじゃなくて」 エリナは少しだけ、マリオを見た。 理由とか、計算とかじゃなくて。 そういう言葉を、マリオは自然に言える。 エリナには、なかなか言えない言葉だった。 「……うん」 短く答えた。 でも、その「うん」に、たくさんのものが入っていた気がした。夜、エリナはレインへの返事を書いた。
レインへ 『一年後を、見届けたい』という言葉を受け取った。師匠もそう言ってくれたと聞いた。 同じ日に、ベルダンから『一年後を待っている』という手紙が来た。フィオナが王都で動き続けている。マリオが『理由とか計算とかじゃなくて、続ける』と言った。 クロヴェルが、最終報告の場を開かせないよう動いていることを、今日知った。フィオナ経由で、ダリウスが教えてくれた。 場を消そうとしている人と、場を見届けようとしている人が、同時にいる。 どちらが勝つかは、まだわからない。でも、見届けようとしている人の数が増えていることは確かだ。 一つだけ、正直に書く。 今日、フィオナの手紙を読んだ後で、少しだけ怖かった。でも、レインの手紙を読んだ後で、その怖さが少し変わった。怖いことには変わらないが、一人で怖いのとは、少し違う。 それが何なのか、まだうまく言葉にできない。でも、あることは確かだ。 残り四ヶ月。続ける。 ――エリナ―― 書いて、封をした。 「一人で怖いのとは、少し違う」という一行を、書く前に少し迷った。 でも、本当のことだから書いた。 レインが『重い時は重いと言っていい』と言った。 怖い時も、怖いと言っていい気がした。机の上に四通の封筒が並んだ。
フィオナへ。ベルダンへ。レインへ。 そしてゴードンへの明日の作業指示書。 四方向に、それぞれのものを届ける。 エリナはランプを吹き消した。 暗くなった部屋で、少しだけ目を開けていた。 ダリウスが来てくれた。教えてくれた。 一票を入れてくれた時と同じく、できることをやった。 『これ以上は言えない』と言って去った。 その背中が、どういうものだったか、フィオナの文章から想像した。 複雑な人だ、とフィオナは最初に言っていた。 複雑なまま、動いた。 それで、今夜は十分だ。 エリナ・アッシュフォード、八歳。 最終報告の場を、消そうとしている人がいる。 でも、見届けようとしている人も、いる。 残り四ヶ月。 続ける。フィオナがルシェムに来たのは、謁見から二週間後のことだった。 予告なしだった。 朝、市場から戻ったマリオが、息を切らして事務室に飛び込んできた。 「フィオナさんが来た」「どこに?」「市場の入り口。馬車で来てる。荷物が多い」「荷物が多い?」「トランクが二つある」 エリナは少しだけ止まった。 「泊まりではなく、しばらくいるつもりですか」「そういうことじゃないか? 迎えに行くか?」「行きます」 市場の入り口に着くと、フィオナが馬車の横に立っていた。 久しぶりに、ルシェムで見るフィオナだった。 王都で会った時とは少し違って見えた。服装は変わらないが、顔が少し違う。 疲れている、と手紙に書いていた。 確かに、少し疲れた顔をしていた。 でも、エリナを見た瞬間、目が変わった。 「来た」「来ましたね、予告なしで」「予告したら、準備されすぎると思って。あなたのことだから、部屋を完璧に整えて、食事まで用意して待っていそうだから」「そうしようとしていました」「でしょう。だから、言わなかった」「荷物が多いですね」「しばらくいようと思って」 フィオナが少しだけ声を落とした。「王都からの仕事は、手紙でできる部分も多い。しばらくルシェムで動きながら、こちらの空気も吸いたかった」「どのくらい?」「一週間か、二週間か。決めていない」「決めなくていいです。いたいだけいてください」 マリオが荷物を運んでくれた。 フィオナが見ると、少し驚いた顔をした。 「マリオ、大きくなった?」「なってないと思うけど、フィオナさんが久しぶりに会うから大きく見えるだけじゃないか?」「そうかもしれない。でも、なんか違う。顔が違う」「どう違う?」「前より、落ち着いた顔をしてる」「そうかな」
翌日から、エリナは動き始めた。 といっても、急いでいるわけではなかった。 落ち着いて、一つずつ。 謁見の翌日以降に何をするかは、帰り道の馬車の中でゴードンと話し合っていた。 優先順位は決まっていた。 一つ目、商会の代表変更の正式書類を処理する。二つ目、各町の現場責任者に謁見の結果を報告する。三つ目、フィオナと連携して規制案の継続審議への対応を続ける。四つ目、学院の衛生教育の検討に、商会として協力できることを提示する。 どれも、急ぎではない。 でも、止まってもいない。 まず、商会の代表変更の書類が届いた。 アルバ殿下が約束した通り、一週間以内に書状が来た。 正式な書類に、エリナ・アッシュフォードの名前が入っていた。 アッシュフォード商会の代表者、エリナ・アッシュフォード。 ゴードンがその書類を机の上に置いた。 「これで、正式になりました」「そうですね」「どういう気持ちですか?」 エリナは少しだけ考えた。 「思っていたより、静かな気持ちです」「静か、とは」「もっと大きな感情が来ると思っていた。でも、静かだった。当たり前のことが、形になった、という感じです」「それが、正しい感覚だと思います」ゴードンが静かに言った。「当たり前のことを積み上げてきたから、当たり前に形になった」「ゴードンさん」「はい」「代表名義をずっと引き受けてくれていた。本当にありがとうございました」「礼はいりません。でも、受け取ります」 それだけだった。 それで十分だった。 次に、各町の現場責任者への報告をした。 マグダ、シェナ、ジルカに、それぞれ手紙を書いた。 謁見の結果。陛下が約束を守ってくれたこと。商会の活動が引き続き認められたこと。今後も続けることができること。 返事は、それぞれ三日以内に来た。 マグダから。 エリナちゃん
ルシェムに帰った翌朝、エリナはいつもより少しだけ遅く起きた。 目が覚めた時、空はすでに明るかった。 珍しいことだった。 いつもは夜明け前に目が覚める。でも今朝は、光が差し込んでから目が開いた。 しばらく、布団の中でそのままいた。 これも珍しいことだった。 起きたら、すぐに動く。それがいつものエリナだった。 でも今朝は、少しだけそのままいた。 窓の外から、ルシェムの朝の音が聞こえた。 市場へ向かう人の足音。遠くで犬が吠える声。風が木の葉を揺らす音。 帰ってきた、と思った。 昨日も思った。でも、今朝も思った。 ここが、自分の場所だ。 台所に行くと、セレーナが先にいた。 「おはよう」「おはようございます」「よく眠れた?」「はい。遅くまで眠っていました」「そう。今日くらいは、いいんじゃない?」「そうかもしれません」 薬草茶を作りながら、エリナは窓の外を見た。 冬の朝の空は、澄んでいた。 「お母さん」「うん」「昨日、ゴードンさんから聞いた話があります」「何?」「学院が、来年から衛生教育を取り入れることを検討しているそうです。石鹸の使い方、薬草薬の知識、傷の手当ての手順を、学院の教育に組み込む話が始まっている」 セレーナが少しだけ手を止めた。 「それって、どういうことになるの」「学院で教えれば、学院の生徒が卒業して各地に行く時に、その知識を持っていく。一人が届けられる場所より、ずっと広い範囲に届く」「あなたが一年でやったことが、もっと広がるということ?」「そうなるかもしれません」「お父さんが聞いたら、何と言うかしら」 エリナは少しだけ考えた。 「『私よりうまくやっている』と言うか、それとも『まだ足りない』と言うか」「この前も同じことを言ったわね」「同じこ
翌朝、エリナは早く起きた。 今日、ルシェムに帰る。 荷物を確認した。報告書の写し。確認書の写し。殿下から預かったアッシュフォード商会の正式な代表変更に関する書状の下書き。そして、セレーナへの手紙。 全部、ある。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく朝から饒舌だった。 「昨夜の話、全部聞かせてもらうって言ったけど」「聞きますか?」「聞く。でも、今は聞かない」「なぜですか?」「あなたの顔を見れば、大体わかるから。今日は、その顔で十分」「どんな顔をしていますか?」 ゴードンが静かに言った。 「昨日フィオナが見たかった顔」 出発前に、フィオナと二人になった。 宿の前の小さな通りで、少しだけ話した。 「フィオナ、これからどうするんですか?」「王都にいる。まだやることがある。規制案はまだ継続審議のままだ。陛下が認めたとはいえ、クロヴェルが諦めたわけじゃない」「そうですね」「でも、今日は違う話をしたい」「どんな話ですか?」「あなたが帰った後のことを、少し考えた。王都に来てからの一年間、私はずっとここで動いていた。でも、いつかルシェムに行ってみたいと思っている」「ルシェムに?」「マリオとルナに、会いたい。あなたが話してくれた人たちに。あなたが動いてきた場所を、見てみたい」「来てください、必ず」「いつ行けるかはわからない。でも、行く」「待っています」 フィオナが少しだけ笑った。 「その言葉、昨夜もレインに言ったでしょう」「言いました」「同じ言葉が、自然に出てくるようになったんだね」フィオナが穏やかに言った。「前のあなたには、なかった言葉だと思う」「そうかもしれません」「いい変化だと思う」 フィオナが手を差し出した。 エリナはその手を両手で握った。
謁見が終わって、王宮を出たのは昼過ぎだった。 アルバ殿下が廊下で待っていた。 「よくやりました、エリナ殿」「ありがとうございます。殿下の準備がなければ、今日はなかった」「王都のデータは、効きましたね」 殿下が少し笑った。「右側の列が、ざわついた」「見えていました」「父上は、満足そうでした。あの顔は、久しぶりに見た。一年前に、『わくわくしている』と言いましたが、今日はそれ以上でしたよ」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 「殿下、商会の代表についてお願いがあります」「ゴードンさんから聞きました。昨夜、連絡をいただいた」「はい。正式にエリナ・アッシュフォードの名で商会を持てるよう、陛下にご確認いただけますか?」「すでに父上に話しました。年齢の問題は、特例として認めていただける方向です。正式な書類は、来週中に届きます」「ありがとうございます」「アッシュフォード商会の代表が、アッシュフォードの名前になる。当然のことですから」 王宮の外で、師匠とレインが待っていた。 師匠がエリナに言った。 「一つだけ言っておく」「はい」「今日の発言で、一番良かった部分を教えてもいいか?」「ぜひ」「クロヴェルへの返答だ」 師匠が静かに言った。「感情で返さなかった。でも、感情がないふりもしなかった」 エリナはフィオナが昨日言っていた言葉を思い出した。 「感情がないふりもしなくていい、という言葉を、昨日フィオナからもらいました」「賢い子だ、フィオナ殿は。あの返答には、あなたがいた。数字だけではなかった」「届きましたか?」「届いた。俺には届いた。他の人間にも届いたと思う」 師匠が一歩退いた。 「俺はこれで失礼する。よくやった」「先生、ありがとうございました。一年間、本当に」「礼
謁見の日の朝、エリナは四時間ほど眠った。 眠れると思っていなかったが、眠れた。 目が覚めた時、空はまだ暗かった。でも、もう眠れなかった。 起きて、顔を洗って、薬草茶を作った。 ルナが持たせてくれた葉を使った。 温かい湯呑みを両手で持って、部屋の窓から外を見た。 王都の夜明け前。 ルシェムとは違う空の色だった。でも、夜明け前が静かなのは、どこでも同じだった。 今日、謁見の間に立つ。 もう一度、確認した。 怖い。でも、届けたい。 それだけでいい。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく静かだった。 いつもは何か言う人だが、今朝は食べながらあまり口を開かなかった。 エリナが「どうかしましたか?」と聞くと、フィオナが少し笑った。 「緊張してる」「フィオナが?」「私も人間だから。あなたが緊張するより、私が緊張してる気がする」「なぜですか?」「あなたが上手くいくかどうかを、見ている立場だから。自分が話すより、大事な人が話すのを見ている方が、緊張する」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 大事な人が話すのを見ている方が、緊張する。 「フィオナ」「何?」「今日、謁見の間に入れますか?」「入れない。謁見の場に入れるのは、名前がある人間だけ。私には、今は資格がない」「そうでしたか」「廊下で待ってる。終わったら、すぐ出てくるでしょう。その顔を見る」「どんな顔をしていると思いますか?」「わからない。でも、見たい顔をしていると思う」 謁見の前の十分間は、王宮の廊下の一角で過ごした。 フィオナ、ゴードン、エリナの三人。 廊下は石造りで、冷たかった。外の空気が、石を通して伝わってくる。 エリナは上着の内ポケットに手を当てた。 手紙が、ある。 フィオナが言った。 「今日の目標を、一つだけ確







